(((さらうんど)))

架空の都市のための、フィクションとしてのシティ・ポップに世界の理想像を託しながら、キラめくシンセ・サウンドと軽快なディスコ・ビートで2010年代のポップ・シーンを滑走してきた(((さらうんど)))はいま、自らのイメージを大きく変えようとしている。これまで自らに課してきた「ポップス」という制約が、鴨田の綴る言葉やヴォーカリゼーションから新たな表情を引き出し、主にクリスタルの設計するトラックから完成された機能美を引き出してきたことは、疑いようもない成果としてセカンド・アルバム『New Age』に刻まれている。その延長線上をゆるやかに旋回していく選択肢もあったはずだが、以下のインタビューを読んでいただければ分かるように、(((さらうんど)))はここ数年で出会った新たな音楽に大いに刺激されながら、自らも過去を絶っていく道を選ぶこととなった。そう、<トラックス・ボーイズ フィーチャリング イルリメ>という、メンバーの構成をただ事務的に説明するに過ぎない簡潔な定義は、しかし、サード・アルバム『See you, Blue』の前ではむしろ本質的なものとなるかもしれない。鴨田はポップスとしての「分かりやすさ」をある意味では放棄し、初期衝動的にリリックを綴り、クリスタルはほとんどクラブ・ミュージックの方法論でトラックを構成。それぞれがそれぞれの本質に立ち返り、徹底的にそれを磨き上げることによって、(((さらうんど)))は新鮮な空気を大きく吸い込むことに成功している。しかも、それらが最後の最後で再び「ポップス」のフィルター越しに吐き出されることによって、『See you, Blue』はバラバラになってしまったわたしたちのことをそれでも肯定するだろう。悪いことばかりではない。ここが新しいスタート地点だ。

取材、文:竹内正太郎

——
『See you, Blue』、これまでの(((さらうんど)))を踏まえつつも、音楽性がかなり変わったなという印象を受けました。トラックの自由度が増したというか、かなり遊んでいますよね。
鴨田潤
聴いている音楽が変わってきたっていうのがありますよね。クリスタルが去年からUKのベース・ミュージックとか聴くようになったのが意外で。
Crystal(以下C)
そうですね。それまでは4つ打ちのハウス、テクノばかりで、UKのベース・ミュージックはぜんぜん聴いてなかったんです。大昔に4ヒーローのファーストとかは聴いていましたけど。
鴨田
それは何?敵対心とかあったの?(笑)
C
うーん、なんでだろう。単純に、ハウスとかテクノをある程度しっかり聴こうとすると、そこまで手が回らなかったというか。
鴨田
時間と、お金ね。DJは専門的に掘り下げないといけない点もあるしね。
Kenya Koarata(以下K)
テンポもぜんぜん違うしね。
C
そういう、DJ的な理由が大きいかな。ただ、そうやってテクノとかハウスで自分のスタイルを固めようとするんだけど、そこに限界も感じていたというか。だから、「Boys & Girls」なんかはまさにそういう、今までの(((さらうんど)))にはないリズム・パターンですよね。
——
Seihoさんを呼んだっていうのも、そういう流れで?
C
そうですね。最近のベース・ミュージックを聴くようになったきっかけはいろいろあったんですけど、Seihoくんの『ABSTRAKTSEX』もそのひとつだったから、一緒にやりたいと思って。あとはドリアンも、作品はもちろん好きだけど、ふつうに話しているなかで、同じようなビート・ミュージックとかベース・ミュージックに興味を持っていることが分かったので参加してもらいました。
鴨田
おれは、砂原さんとはもう一回やりたいと伝えて、あとの人選を含めたサウンド・プロデュースの進行はクリスタルに全部任せていて。
——
ゲストの人選ってことで言うと、今回も間奏のソロには楽しませてもらいました。「Please Be Selfish」なんかはサビの代わりにサックスのソロが入っている、みたいな構成で、全体の四分の一がサックス・ソロになっています。
鴨田
それはもう、ポップスをやるからにはソロを乗せましょうか、っていう感じで。でも、あえてソロを入れなかった曲もあって。例えば、ドリアンとの曲「Hibiscus」があるけど、あの曲には本当はキーボードのソロを乗せましょうかって話があって、実際に録ってもらったんだけど、それは申し訳ないけど「なしで」ということになって。
——
どうしてですか?
鴨田
自分たちのポップスに対する意識が変わっていったのかもしれない。それまではわりと「矢継ぎ早に聴覚を楽しませよう」という感じで、「サビが終わって、ソロが入って、盛り上がって、さらに盛り上がるサビ」みたいな構成だったんだけど、そういうのはセカンドで終わった感じがあって。
K
ちょっと仰々しかったよね(笑)
鴨田
だから、そこはもっと意識してやろうってことになって。これまでは、正直に言うとポップスに対するアレンジ力の無さを補うためでもあったので、ソロは。
C
プレイヤーに頼るっていうね。
鴨田
そうそう。1分なり、2分なりをプレイヤーに任せると、その間はそれだけで聴かせることができる。じゃあ、そこをプレイヤーに頼らずに一曲を聴かせるやり方がいまの(((さらうんど)))にあるのかってことを考えると、「音色(おんしょく)」をじっくり聴かせるって方向にいくと。「キックがここにあって、シンセがここで鳴ってて」っていう空間把握というか、ダンス・ミュージックとかアンビエントを聴いてもらう時に近い、より感覚的な方向にいく方がおれらは強いから。そういう部分をいままでは隠していたけど、サードは「もういいんじゃないか」ってことになった。その結果、例えばドリアンの曲にキーボードのソロが入らなかったってことになると思います。
C
あとは、曲の構成の話もかなりあったね。
鴨田
あったあった。
C
例えば「Hibiscus」のことで言うと、一番には<ひら歌→サビ>的な流れがあるんだけど、二番にはサビの部分しかなかった。
——
曲の構成って、そもそもどうやって決めているんですか?
鴨田
なんていうか、、、話し合わずに。
——
話し合わずに?(笑)
C
だいたいの尺だけ決めたトラックを俺が鴨田さんに送って、そのどこの部分で歌を乗せるかは鴨田さん次第っていう。
鴨田
適当と言えば適当。
C
それで、自分のイメージしていた構成と変わることもあるし、それが良い方に向かうこともある。
鴨田
あとになって、「ああ、ここでは歌を入れて欲しかったのか」みたいになったり。
——
自分のなかでいちばん気に入っている曲は?
C
「Her In Pocket」かな。
鴨田
これはけっこうやり直したよね。何回も。ゴメンって、今さら謝るけど(笑)。
K
これまでのアルバムで、いちばんシビアだった感じはしましたよね、今回は。鴨田さんの曲に対するシビアさとか。
鴨田
そーかな?セカンドの時ほどシビアではなくなったと思うけどな。
K
いやいや、圧倒的にシビアだったでしょ(笑)。けっこう細かく指示が入っているな、とは思っていましたけどね。ギターのエディットの具合とか、途中段階でのあの細かさは、作っている側にしかわからないと思う。
鴨田
最近、自分の美意識がどんどん強く、確固たるものになっていて。だから今回は特に、「もうちょっといけるだろう」と思ったんですね。クリスタルはもっと自分を壊すことができるだろうと。
C
シビアでしたけど、途中、それで「Her In Pocket」とかが確実に良くなって行ったから、ここは鴨田さんを信じようと。誰かにダメ出しされないと自分の中にしかいられないから。
——
実際、トラックス・ボーイズやソロとかが楽しみになるアルバムでもありますよ、今回は。クリスタルさんの場合、2013年の12インチ『Break The Dawn / From Red To Violet』は、NYの<Beats In Space>からもリリースされてるわけですし。
鴨田
(((さらうんど)))をやるようになって、こっちでポップの部分を思い切り出せるから、トラックス・ボーイズではもっとダンスの側に行けるって言ってたよ、当時のクリスタル。
C
言ってましたね。
K
あー、そうだったかも。
——
それはいい話ですね。シビアに接しつつ、実は本人のことを誰よりも考えてる部活の先輩的な(笑)。ところで「Her In Pocket」は少し、ネオン・インディアンっぽいなと思いましたがどうですか。
鴨田
ネオン・インディアンはめっちゃ好きじゃなかった?
C
いわゆるチルウェイブのなかだったらネオン・インディアンはいちばん好きだし、特にセカンドは大好きなんだけど、この曲ではそんなに頭にはなかったかな。自分の中にあったのは、DJ Kozeのリミックス集『Reincarnations Part 2』とか。もちろん、出来上がった曲はそれそのものにはなってなくて、イメージとすると「歌は入ってるんだけど、アレンジは『なにこれ?』」みたいなやつにしたくて。だから、最初はアレンジがぜんぜん違う感じだった。
K
3人だけでやるって話でね。
C
ライブで3人だけでやる想定のアレンジでつくって、それが無しになって、その後つくったアレンジは、<Kompakt>のGui Borattoみたいな感じだったかな。キックが4つで入っていて、ニュー・オーダー風というか。でも、「悪くはないけど予想ができる範囲じゃない?」っていう意見があって。さて、それでどうしようかと思って悩んでいるうちに、ポイントの頭以外のキックを全部なくしたっていう。
——
今回はハウス・アルバムになるって噂もありましたが、4つ打ちはほとんどありませんね。
鴨田
4つ打ちって、歌詞乗せるのがけっこう難しい。「間(ま)」がないんです。これがヒップホップだったらキックからスネアの間と、キックからキックへの間、とかあるんだけど、ハウスだとキックとキックの間が短いので頭が使い辛い。体の方に意識が向けられているので、どうしても言葉が入れにくい。だからハウスって、リフレインが多かったりする。あれは、頭と体で意識の割合が乖離してしまうからだと。
——
佐野元春さんとは不思議な縁が続いてますね。
C
「乙zz姫」は最初、鴨田さんがイリシットツボイさんとセッションするってときに、あの曲を使うことになってて。最初はイルリメとして考えていたらしいんだけど、最終的には(((さらうんど)))に持ってきたっていう。
鴨田
(((さらうんど)))のライブって、今まではほぼインストを流してるだけだったんです。それを打開したくて、いかに躍動的にするかってことを考えたときに、ループ・ミュージックで、その場でエディットしたり、抜き差ししたり、アレンジできるポップスを作ったらいいじゃないかということになって。それで「乙zz姫」のあのループを思いついて。ライブ前提で制作が進んでるので、この曲だけ3人で作っている。
——
今回は音がよりクラブ寄りになっていて、これまでのライブでの経験が活きているのかなと思ったんですが、ライブ活動からのフィードバックはありましたか?
鴨田
ライブの経験は活きますね。普段、<カクバリズム>にいるってこともあって、バンドの人とやることが多いんです。そこに、うちらは打ち込みのポップスとして入っていくんだけど、お客さんの反応を見る限り、そんなに求められてないというか(笑)。そんなに打ち込みの音楽好きじゃないんだなと感じることがある。
K
それはホントにあるよね。やっぱり演奏してないとダメなんだなあ、みたいな雰囲気は感じる。
——
となると、トラック面でもライブを念頭に作った感じでしょうか?
C
いや、必ずしもライブが先にあったわけではなくて、今までの(((さらうんど)))で出せてなかった自分の嗜好を出す、ということですね。ファーストとかは特に、ポップスを作ろうという決まりのなかでやっていたんですけど、それはもう取っ払って、例えば「Time Capsule」とか、ああいうトラックは(((さらうんど)))でやろうとはまったく思ってなかったタイプだから。
——
「Time Capsule」、良いですよね。僕の感じたところでは、クラフトワーク的というか、ドイツっぽいかなと思ったんですが。後半の流れを象徴していると思います。
C
仮タイトルは「スーサイド」でしたね。頭にあったのはジェームス・ホールデンとか、あとはマイ・ブラッディ・ヴァレンタインとか。自分の好きなものを反映させた感じかな。それに、メンバーとのコミュニケーションのなかで、ホールデンのアルバムは3人とも気に入っているとか、鴨田さんがマイブラ聴いているとか、そういう感覚を共有する前段階がありつつ、このアルバムの流れなら入れても大丈夫かなと。
鴨田
ホールデンくらいからだったよね、ポップスに対する意識が変わっていったの。あれを聴いたら、自分がポップスだと思ってきた以外のやり方で、もっと音楽的にやってみたいことが増えていった感じで。
——
ホールデンというと、2006年のファーストが出たときに「エイフェックス的な狂気と、マイブラ的なノイズの出会い」みたいに紹介されてましたよね。(((さらうんど)))がこれまで築いてきたイメージからすると意外というか。リスナーとしてはああいうものがずっと好きなんですか?
C
好きですね。ホールデンが出てきた時は本当に興奮しました。
——
とすると、シティ・ポップ的なものを作るのがストレスになってきた感じですか?
鴨田
いや、ストレスなわけではないよね。シティ・ポップは今でも聴くし。ただ、自分たちで作るとなると、思考がそこからは遠い状態になったということかな。
C
ホールデンの音楽って、例えば日常生活のなかで抱く気持ちを表すための音ではなくて、もっと超越したものだと思うんですよね。達郎さんを聴きながら街を歩くのとは違う。
鴨田
もう、そこに独立した世界観があるというか。それが、(((さらうんど)))が目指してきた「頭の中に街を作る」感じに合っていたというか。
——
たしかに、(((さらうんど)))は架空の都市のためのシティ・ポップという感じがします。他に刺激になった音楽はありましたか。
鴨田
おれは去年、ほぼハウスしか聴いてなかったんだけど、クリスタルから教えてもらったリエゾン・ダンジェルーズなどもらったまま聴いてなかったものをアルバム制作終わって聴いたりしていました。
K
あとは、ケレラとかね。
C
ボクボクとやった「Melba's Call」、あれはみんなが好きだったよね。
——
そういう感じはすごくよく出てますよね。個人的なことですが、(((さらうんど)))のファースト・アルバムを、もともとがテクノ雑誌である『ele-king』で称賛するのって、文脈的にどうなんだろうと思ったこともあったんですが、今回はまさにドンピシャだと思います。<Fade to Mind>とか<Night Slugs>あたりを聴いている層にもばっちりアピールできる作品になっていると思いますよ。
C
そうなったら嬉しいよね。
K
セカンドまでだと、そういう層に届いてない感じがしたよね。まあ、自分たちでそんなに雰囲気を出してなかったっていうのもあるけど。
C
今回はサウンド的にも、そういうクラブ・ミュージック的な手法を解禁しているからね。
鴨田
とは言え、「どの層を狙う」みたいなことを考えてる余裕はなかったのが実際かな。とにかく完成させることと基本的なプロモーションの方法を考えていたら、発売の3ヶ月前にやっと完成して、いつの間にか販売されていた感じです。そこまで頭回ってなかったという。
——
ははは。いま、例えば20代のミュージシャンとかだと、音楽を作る能力だけではなくて、自分を説明するプレゼン能力や、同時代的な戦略性を持つことがデフォルトだったりするんですが。
鴨田
「戦略」とまで行ってしまうと、やりたい人はやればいいし、やりたくない人はやらなくていい、という風に感じるかな。あんまり僕らには関係ない話ですね。
——
ここで思い出すのが、セカンド『New Age』のときに鴨田さんがプロローグとして発表していた文章、小沢健二を引き合いに出して綴ったマニフェストのことなんですけど。というのは、(((さらうんど)))が自己言及らしい自己言及をしたのって、インタビューなどを除けば、あれがいまのところ最初で最後だったのかなと思うのですが。
鴨田
ああいう説明はファーストのときに売り場用のポップとして書いていて、セカンドもそれ用に書いたのをウェブに載せたのがそもそもですね。まあ、あの頃は小説を書いたりもしていたから、文章を書く頭になっていたんだと思う。今はもう、そういうモードじゃないという。
——
セカンドのときのあの文章で、「あいまいな気持ちでは届かない」というのが印象的だったんですよ。音楽が届いていないという感覚があったのだろうかと。
鴨田
いや、あの時期もむしろミュージック・ヴィデオの完成度を上げるのに必死だった記憶しかないな(笑)。だからいま、届いていたのか、いなかったのかと考えると、分からない。
——
なるほど。では、トラックス・ボーイズのお二人は、いわゆるダンス・ミュージックではなく、歌モノのポップ・ユニットとして動いてきて、今までとは違う自意識みたいなものって芽生えたりしましたか?
K
俺は、(((さらうんど)))ではK404ではなく本名表記にしたってのがありますね。
鴨田
え、どういうこと?(笑)
——
ダンス・ミュージックよりも、リスナーの内面とより深く関わってしまう可能性のある音楽じゃないですか、歌モノのポップスって。
K
よりパーソナルな雰囲気がするよね。なんか自分の活動自体、K404って名前ですげーアンダーグラウンドな感覚があったんだけど、(((さらうんど)))に参加して、ちょっと違うかなっていうのはありましたね。
——
それは責任感のようなものですか?
K
責任感というか、自分の中でのトライ、もしくはアップデートという感じかな?
C
自分の場合は、聴いてくれる人だとか、ライブに来てくれる人の雰囲気が違うっていうのはあるんだけど、そこまで意識の変化はなかったように思います。トラックス・ボーイズもポップスの要素を内包していたと思うし。たしかに、音楽を作ることの意味については以前よりも考えるようになりましたが、それが(((さらうんど)))をやるようになってからのことなのかは、ちょっと分からないかな。
——
なるほど。
C
ポップスをやるようになったのって、結局は技術的にそれが可能になったから、という気がしますね。
K
ただ、DJ以外のことで、人前で何かをやることに未だに慣れないというのはあるかな。
C
あ、それは分かる(笑)
——
ははは。いま、壊れたようなクラブ・ミュージックのトラックにヴォーカルを乗せてポップスにしようとしているのが、ケレラだったり、アルカだったりすると思うので、そこともリンクしている気がして、『See you, Blue』はとても好きですね。
鴨田
アルカ、めちゃくちゃすきで。このあいだの『Sheep』もすごく良かったし。あの人を見てね、追究していかないといけないんだなと思った。美意識があのくらい強くないと面白くないなというか、あそこまで高まっていけないんだなと。あとは、ベルリンの<Janus>とかも面白いと思うし、ああいう勢力がヨーロッパに向かっているのは、どういう流れなんだろうとか考えてる。
——
ちなみに、新しい音楽ってどうやってチェックしてますか?
鴨田
ツイッターと、あとはsoundcloudでフォローしているひとのミックスをチェックしたりとか。
K
自分はレコード屋のチェックと、あとみんなに教えてもらう感じですね。スタッフの人に面白いやつがあるか聞いたりして。
C
僕はツイッターとフェイスブック経由が多いですね。
——
クリスタルさんは12インチとかを買いまくってるイメージありました。
C
今でもレコードが一番好きなんですが、ライフスタイルの変化で、音楽を好きに聴ける場所が車の中とiPhoneくらいになってしまったので(笑)、今は基本、CDだったりしますね。もしくはデータ。
——
車だとCDになりますよね、分かります。ちなみに、いわゆる音楽メディアって読みますか?
C
『Resident Advisor』、『Pitchfork』、、、
鴨田
『XLR8R』、『FADER』、、、
C
ニュースメディアじゃないけど、<Red Bull Music Academy>とかも気になるかな。
——
ぜんぜんシティ・ポップじゃないですね(笑)。いわゆるシティ・ポップ的なものから離れながらアルバムをまとめるにあたって、コンセプトやキーワードはありましたか?
C
とにかく「クリーンじゃないもの」を、ということかな。これまではどちらかと言えばクリーンだったからね。今回はレコードからちょっとだけ持ってくるみたいな、細かいサンプリングも多いから。音全体も歪ませていたりとか。
鴨田
「歪ませたい」っていうのが、根幹にありましたね。これまでのクリーンなポップスではなくて。
——
今さらながら、(((さらうんど)))のスタートの話にまで戻ってしまうのですが、鴨田さんがツイッターで「ポップスをやりたい」と呼びかけたときのことを改めて教えてください。
鴨田
もう覚えてないよ(笑)。
C
その頃って、達郎さん聴いてたんでしょ?
K
ファンクラブにも入ってね。
鴨田
あ、思い出してきた。まず最初に、深町純のファーストを聴いて。それにライナーが載ってて、ファーストとセカンドが歌モノなんですけど、セカンド出して売れなかったら歌うのやめようって言っていたらしいと書いていて。で、結果とすると売れなかったから本当に歌うのやめた人なんだけど、それを知って「別にやりたいことやったらいいんじゃないか」と思ったんですよね。で、それまでに弾き語りまではやっていたので、バンドを組んでポップスをやってもいいんじゃなかろうかと。それでクリスタルがシティ・ポップとか詳しくて、Kenyaはクラブ寄りの音楽が詳しかったから、そういうのを融合して新しい音楽を作ろう、三人がシュガー・ベイブを好きな感じを共有して新しいものを作ろう、って感じだった。
——
当時の歌詞の書き方は?
鴨田
その音にどういう歌詞を乗せたらいいのかってことを考えたときに、まず最初に思い浮かぶ80年代のちょっと軽薄な感じは自分には合わないし、やりたくないので、ああいう煌びやかな感じを完全なフィクションとして成立させようって思って作ってたんです。サイキックの要素を入れたりとか。
——
ずっと面白いと思っていたのが、(((さらうんど)))ってシティ・ポップなのに東京のことを歌わないじゃないですか。
鴨田
だっておれ、普段関西弁。
——
あっ。
一同
(笑)。
鴨田
イルリメで「たれそかれ」とかは東京って単語入って歌っていたりしますけど。でも、わざわざ東京のことを歌いたいかといったら、それはないです。この場所について特に何かを思っているというタイプの人間ではないので。
K
ヒップホップとかだと、「地元としての東京」をラップしたりすることはあるだろうけど、俺たちの場合は聴いてる音楽も海外のダンス・ミュージックだから、そういう空気感にはならないのかもしれない。
——
東京インディ的なものとのズレが面白いと思ったんですよね。(((さらうんど)))の音はいたるところでシティ・ポップと呼ばれまくっていますけど、よくよく聴いてみればさして東京っぽくはないし、特定の場所(=シーン)を持っているわけでもないし、(((さらうんど)))にとっての「シティ」は常に抽象化されている。
C
それはそうだと思う。メンバーで曲を作るときも、ほぼメールだしね。
——
離れた場所にいながらファイルを送り合って曲を作っているのも、例えば<WARP>からデビューしたフューチャー・ブラウンなんかとも同じだし、すごくいまっぽい感じなんですよね。
鴨田
その分、アルバムのレコーディングが終わったっていう手応えがないっていうのもありますけど。ほぼメールでやり取りしているから、今回はいつになくふわっと終わった感じがする(笑)。
——
なるほど。では、もう少し歌詞についてお聞きしますが、前提として、今回は「これは何々のことについて歌っている曲だ」ということを一概には判断できない歌詞になっていると思います。この前の話と総合すると、サードは「言葉を信頼していないポップス」という解釈はどうですか。
鴨田
そういう感じは出ていると思います。
——
それに加えて、「絶望」という言葉が何回か登場するのがひとつのポイントかなと思うのですが。
鴨田
うーん、あんまり具体的な話になるとうまく伝えきれないし、伝えるときはもっとしっかりと伝えたいので、、、そこはコメントが難しいね。
——
では、質問の仕方を変えましょう。セカンド・アルバムが「理想」を歌う作品だったとすれば、今回のサード・アルバムは何を歌った作品だと思いますか?
鴨田
孤独の肯定と、ナルシシズムへの賞賛です。
——
なるほど。では、先のマニフェストに絡めて質問を加えると、理想のポップ・ミュージックとは、まさしく理想を歌うものであるという認識は今も変わりませんか?
鴨田
「理想」を言うことをしないと、何事も発展しないという思いはある。けれども、正直に言うと、「理想」だけじゃなくて、後ろ向きに思えることを歌うのも必要だと今は思ってる。
——
となると、「Please Be Selfish」の歌詞のなかで、全速力で「ぼくら」を追い越して行ってしまう「君」が、理想の投影なのかなと解釈したのですが。
鴨田
そうですね。
——
今の時代に、『LIFE』的なものは必ずしも有効ではないと思いますか?
鴨田
有効な「瞬間」はありますよね。
——
ああ、なるほど。
鴨田
「瞬間」のためにポップ・ミュージックはある。だから、理想は必要ではあります。それと同様に、今回のアルバムもそういう、ある「瞬間」のために存在するんだと思う。
——
ネガティブな感情を肯定しなくちゃいけない瞬間があると。
鴨田
そうです。しかも、自分はネガティブなものとは考えていなくて、孤独をそのまま肯定したいんですよ。孤独は個性だから。
——
恥じるものではないと。
鴨田
そうです。「孤独」を持ってないと、「個性」も持てないということ。
——
よく分かりました。いまの鴨田さんは、小沢健二よりもSAKANAのポコペンさんに近いのかもしれませんね。改めてお尋ねしますけど、そういう時にどういう歌詞を書いて、どういう音楽をやろうと思うんですか?
鴨田
明確になったんですよね。自分が誰に対して音楽をやればいいのかってことが。そのために曲を作る方が、自分は自分に忠実に生きてられるという気持ちが出てきて。だから、今回の歌詞は独白に近いんだと思う。
——
なるほど。
鴨田
あとは、イルリメをやっていた頃に「歌詞がぜんぜん理解できない」、「何を書いているのか分からない」と言われていたことも、これまでは頭にあって。で、自分なりにだんだん説明をちゃんとしていくようになったんだけど、いつの間にかそれが過多になっていた気もして。それで今回、改めて考えてみたら、最初の頃の方が歌詞の書き方として、自分に忠実だったなと思って。だから今回の歌詞は、言葉の原液に近いものを出している感じ。
——
では、例えば、寺尾紗穂さんの存在はどのように受け止めていますか?
鴨田
まず歌がうまいし、尊敬してますよ。ただ、あの人みたいな存在がもっといていいはずなのに、なかなかいないというのは気になるかな。
——
となると、例えば今回の「梔」は《口無し》に掛かっている?
鴨田
そうですよ。
——
うーん、なるほど。だんだん分かってきました。ちなみに、こうやって歌詞を深読みされることの、鬱陶しいですか?
鴨田
いや、大丈夫。それは言われた内容との距離感からくると思うので。
——
僕が先ほどからこだわっているのは、やはり、今回の『See you, Blue』は批判精神に満ちたメッセージ・アルバムとも受け取れると思うし、その側面が伝わって欲しいなと考えているからなんですけど。
鴨田
ありがとう。でも、ここは関しては、自分のなかではもう答えが出ているというか。地道に、賛同してくれる人間を探して、それを少しずつ増やしていくしかないというね。NYの<GHE20G0TH1K>の連中だって、自分たちのことをネガティブな存在だとは捉えていないはずだし、LAやシカゴ、ロンドン、それにベルリンなんかとも連帯できる現状なんだから、自分もそういう方向に力を注いでいこう、と。そのためには英語でも中国語でも韓国語でも学びたい、という気持ちですね、今は。
——
なるほど。となると、今回のアルバム・タイトルは『See you, Blue』というのは、、、
鴨田
「自分のなかの憂鬱よ、また会いましょう」っていう。
——
「絶望」のアルバムかと思いきや、めちゃくちゃ前向きじゃないですか!そう考えると、「Please Be Selfish」、つまり《わがままであれ》って、とても良いですね。
鴨田
さっきの「孤独」と同じで、「わがまま」は立派な個性だし、自由ですからね。
——
これが5曲目で、アルバムのピークタイムにかかる流れ、素晴らしいと思います。アルバムの曲順、毎回最高ですけど今回もベストな感じですね。
C
曲順を褒めてくれるの、竹内君だけですね。
鴨田
誰もほめてくれないという(笑)
——
自分のなかでは、ある夜のどこかのパーティーに、「ピークタイムのちょっと前」くらいに時間帯で合流して、そのまま「Please Be Selfish」がピークで、そこから少しずつ朝に向かっていくイメージですね。これは毎回、テンポとかを計算してるんですか?それとも曲のムードで?
C
BPM、ムード、すべてを考慮して決めてます。自分のなかでは「これでしかあり得ない」という曲順なので。
——
まさにDJ的な。
C
人の作品やDJ聴く時も、いくら曲単体が良くても流れが良くないと、ひどい場合怒りすら覚えるので、、、、(笑)、だからアルバムは曲順まで含めて聴いてもらえると嬉しいですね。
——
2曲目が「Boys & Girls」の時点で完璧だと思います。では、そろそろ最後の質問にしましょう。これまでの話を踏まえて、改めてお尋ねしますが、『See you, Blue』はいまの日本に暮らす人に何を提供できると思いますか?
鴨田
絶望している人に、この音楽作品を提供できたと思います、、、、あ、ちょっと暗いかな?
K
暗いかも(笑)
——
いや、『See you, Blue』を聴いた人が読めば、ちゃんと伝わると思いますよ。「Time Capsule」の歌詞じゃないですけど、涙を吸って咲く花があるなら、その花を咲かせる作品だと思います。
鴨田
オーケー。
C
答えになるかは分かりませんが、自分は「孤独」だとか、「無常」を前提とした感情・感覚を表現したいと思っているので、今回のアルバムもそういうものになっていればといいなと。もちろん、それを「前提とした」なので、その上でのダンスだったり、希望なんですけどね。
bg